準備を怠らず覚悟を持ってスイングせよ!

 
 
インパクトの瞬間にクラブから手を放すプレーヤーを見かけることがあります。

松山英樹選手もその一人かもしれません。

実際、PGAツアーなどでは、松山選手がショット後にクラブから手を離し、一見ミスショットのように見えるにもかかわらず、ボールがピンそばに止まるというシーンをジョークとして特集することもあります。

本記事では、『Search for the Perfect Swing』(Cochran & Stobbs, 1968)にもとづく物理学的な証拠と、最新のスポーツ科学の知見をもとに、「なぜインパクト中の操作は不可能なのか」をみていきましょう。

インパクトで何かを操作できる?

ゴルフでよく言われるのが、「インパクトで何かを操作できる」という考え方で、「押し込む」「返す」「フェースを感じて調整する」こうした言葉はレッスン現場でもよく使われますが、本質的にはすべて幻想です。

正確には、インパクトでは「何もできない」が、
スイング途中では「少しだけなら介入できる」のです。

前提:「ボールは撃ち出された瞬間にすべてが決まる」

砲弾が大砲を飛び出したあと、砲手がどれだけ腕を動かしても軌道は変わりません。
これは外部弾道学(飛翔中の運動)という観点から見れば当然のことです。
ゴルフもまったく同じです。

一度クラブフェースからボールが離れた瞬間、飛距離・方向・スピン・曲がりなど、弾道を決定づける要素はすべて確定しています。

打った後に身体をねじったり、手をひねったりしても、それが軌道に影響することは絶対にありません。

インパクトは「0.0005秒」

では、ボールがフェースに接触しているインパクト中なら操作できるのでしょうか?

答えは「それでも不可能」です。

クラブフェースとボールの接触時間はわずか0.0004〜0.0006秒(0.5ミリ秒)といわれ、
その間にクラブが進む距離は約1.9cm(フルスイング時)と実験で出ています。

人間が筋肉を動かすまでの反応時間(0.15〜0.25秒)と比較すると、約400倍も短い世界で、人間の意識や筋出力の世界とはまったく別次元という事が理解できます。

つまり、あなたが「今フェースを操作した」と思っているその瞬間、
ボールはすでに15ヤード先を飛んでいるのです。

時系列で表すと、

  1. 感覚が指に届くまでに:0.01秒
  2. 脳が判断して命令を出すまで:0.15〜0.25秒
  3. 筋肉が実際に動くまで:0.20秒前後

このことから、インパクト中に「押す」「返す」「操作する」は
物理的にも生理学的にも不可能という事がわかります。


プロがよく言う「インパクトで押し込む感覚」は、実際には
「ボールがすでに飛び去った後の“遅延した感覚」であり、弾道に影響をあたえません。
 

「手先」では太刀打ちできない力


インパクト時には、クラブヘッドとボールの間で平均450kg
ピークで約1トン近い力が発生します。

の圧倒的な衝撃の中では、手先の微細な力など「存在しないに等しく」、
仮に意識的な力を加えたとしても、慣性と衝突エネルギーに完全にかき消されてしまいます。

なぜ「手を離すと球が変わる」のか?

「でも実際、インパクト直前でグリップを緩めたら飛ばないよ?」
「途中で手を離すと曲がるよ?」 ―― それは事実です。

しかしその「原因」はインパクト中ではなく、その前の運動連鎖の変化です。

例えば、

  • グリップを緩めると、シャフトのトルク伝達が変わり、フェースローテーション速度がズレる。
  • 手を離すと、慣性モーメントが変わり、クラブパスや入射角が微妙に変化する
  • 意識的な“押し込み”が入ると、体の回転リズムが変わり、フェース面が早く閉じる
⇒ インパクトの「前」に起こったことが、最終的なインパクト結果に反映されているのです。

まとめ

ここまでの科学的事実を踏まえると、次の結論が導けます:

  • インパクト中の操作は物理的にも生理学的にも不可能である
  • 「操作しようとした意識」がインパクト前の動きを変える可能性はある

ですから、

「ルーティーンを整えること」が何より重要です。

これは「メンタル面を安定させるための準備」であり、
「アドレスに違和感がない状態」を作ること。

すなわち、D-planeを含めた正確なセットアップにつながります。

すでに述べたように、「途中で軌道を修正することが困難」である以上、
「私たちにできることは限られて」います。

ナイスショットを打つためには、「丁寧に準備」をして
「覚悟」を持って、迷わず思い切り振り抜くこと。

今も昔も関係なく、「当たり前の事を当たり前のようにする」
ことこそが大事だという事が理解できました。


たとえスイングの途中で違和感を覚えたとしても、
その瞬間にはすでに運命が決まっているのですがら・・

参考文献

Cochran, A. & Stobbs, J. (1968). Search for the Perfect Swing. Cross, R. (2012). “The physics of golf.” American Journal of Physics. Schmidt, R. A. & Lee, T. D. (2019). Motor Control and Learning.



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この記事を書いた人:KENTARO ISHIHARA
15年間シンガポールを拠点にプロツアー参戦と指導経験を積み、現在は日本でプロコーチとして活動中。25年以上のプロゴルファー歴と世界中で学んだ理論をもとに、独自の「KIGOLF理論」を構築。クラブチャンピオンからプロ志望者、現役プロまでが信頼を寄せる本格的なレッスンを展開している。

・AimpointインストラクターLV2・Dr Kwon's BiomechanicsインストラクターLV1・Bio Swing DynamicsインストラクターLV2・Singapore PGA・Edel公認フィッター 詳しいプロフィールはこちら>>>

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